「イヤな夢を見た。」
ある朝、小さな息子が元気なくそう言った。
私が瀕死になっている夢を見たらしい。
「びっくりしたんだね。怖かったでしょう。」
私がそう言うと、息子はポロポロと涙をこぼした。
私は、あまり体が丈夫ではなかった。
少し無理をすると、すぐに動けなくなってしまう。
寝込むことも多く、今まで家族には相当心配をかけている。
よく倒れるけれど、病気ではなく
何故そうなるのかは、原因不明だった。
そんな私を幼い頃から見ている息子
小さな子どもに、今までそんな思いをさせていたのかと
切なくなり、息子を抱きしめた。
息子は胸の中で、わんわん泣いた。
夜、主人にその話をした。
家族に心配をかけていると思ってはいたけれど
これほどまでに子どもを苦しめていたとは思っていなかったことを話した。
「私が倒れたとき、パパも、びっくりしたり怖かったりしたの?」
すると、主人はこう答えた。
「そうは思わなかったよ。」
え…、意外と心配されてなかったのかな…と、軽く驚く。
でも、次の主人の言葉に、もっと驚いた。
「死なせない、って思ってたもん。だから別に怖くなかった。」
今まで、こんなふうに自分のことを思ってくれる人がいるなんて
思ったことがなかった。
体の辛さは、本人でなければどれほどの苦しみかはわからない。
だから誰も、私の体のことは理解できないだろう、家族でさえも。
そう思っていた。
分かち合えないことから、一人で闘っている気がしていた。
確かに、主人はいつでも私のために車を走らせてくれた。
仕事中でも、夜中でも。
何も言いはしなかったけれど。
私、すごく、すごく、大事にされてきたんだな。
そう思ったら、涙が止まらなかった。
「死なせない。」
ずっと、ずーっと長い間
私は、この言葉を待っていた気がする。
「子どもさえいなければ…」という母親の声が聞こえた。
子どもの頃に、聞いた言葉だった。
「私は、いないほうがいい子なんだ。」
そう思って無表情でいた小さな自分が、心の中で笑っている。
良かった。
私は生きていていいみたい。
そう思った瞬間、体全体に流れる温かいエネルギーを感じた。
元気になろう。
そして、もっともっと笑って
心配をかけてきた分、これからはみんなに安心を与えたい。
みんな、私の傍にいてくれて、本当にありがとう。
END