ずっと、自分を誤魔化して生きてきた。
もう、こんな人生は送りたくない。
錆びた鉄の扉を開けると、下に続く真っ暗なスロープがあった。
蝋燭を灯し、辺りを照らす。
スロープの先にある折り返し地点に、何かがいる。
見たこともない形の獣が、頭だけ出してこっちを見ている。
( ̄(エ) ̄)
本当に来るのか?
獣はそう言った。
( ̄(エ) ̄)
自分は遣わされてここに来た。
来る気があるなら連れて来い、そう言われた。
誰に?
( ̄(エ) ̄)
それは、お前が解っているだろう。
獣の後についてスロープを降りる。
足のない獣は、滑るように進んで行く。
しばらく進むと入り口があった。
中の壁には蝋燭の灯りがあり、とても明るい。
そして、獣は消えていなくなった。
それにしても、変わった形の部屋だ。
三角の部屋、四角じゃない。
違和感があるし、イヤな形だ。
(ΦωΦ)
お前が持っているものと違うものを見せる。
声だけが響く。
さっきの獣とは違う声だ。
(ΦωΦ)
お前は、部屋が三角で驚いただろう。
「なんで?」って思ったろう?
でも、こういう部屋もあるんだ。
受け入れろ。
こんな部屋でも、明るく照らせば良く見える。
ちゃんと見ろ。
どういう意味なのか。
見ないようにしていた、見るのをやめたもの、それが三角形の部屋?
(ΦωΦ)
自分の知らないものを「四角」と勝手に解釈して、見ようともしないで生きてきただろう。
そしてお前は「三角」だとは知らないまま、「四角」だと思ったまま、時は過ぎていく。
あなたはハイアーセルフ?
(ΦωΦ)
そう。
俺は蝋燭を持って、光を使ってこいつに見せる。
こいつは、下に下がるのがイヤなんだ。
だから、獣を遣いにやった。
こいつは、自分からは下がってこない。
けど下へ戻って、自分の考えとは違うものもあったということを、受け入れなければならない。
高校の頃の景色が見えた。
みんなが自分をもてはやしている。
「何をやってもうまい」
そんなふうに、周りの人たちが勝手に話している。
自分は、スケートの強化選手だった。
勉強もスポーツも、大抵のことはできた。
だけど自分はたいしたことはしていないし、努力もしていない。
本当に成績が出ているのか?
本当にうまくいっているのか?
全然わからない。
周りは勝手にそう言う。
良し悪しは自分で判断したいのに。
進路も、先生が決めた。
「お前は◯◯高校に行け。推薦しておく。」
そんなふうに、周りが勝手に動いてしまう。
結果、周りの言葉に乗せられる。
そうして、自分で判断できたのに、してこなかった。
周りの人たちのことを考えると、言うことができなかった。
でも本当は、判断も決定も自分でやりたかった。
何でもかんでも、ろくに精査もせずに皆が自分を信じる。
誰も自分を疑わず、そしてもてはやす。
結果、乗せられて慢心する。
乗せられているって、自分ではわかってる。
でも、少し経つとそれを忘れて、いい気になる。
「そうじゃない」
「自分で決めてやりたい」
そうはっきり言えばいいのに、言えなかった。
両親も「◯◯はできるからそこにいる」って、勝手に思っている。
「決めつけないでほしい」
でも、そう言ったら、お母さんが泣くだろうと思っていた。
いっぱいイヤなこともあったし、言えない自分を救ってほしかったけど、言えなかった。
そして、やっているふりをした。
そして、できているようにして、そこから物事を進めていた。
できないことも、できたことにしていた。
お母さんを泣かせたくなかっただけだった。
だってお母さん、いつも泣いているんだもの。
それに重ねて自分まで泣かせてしまったら、って思っていた。
お母さんはいつでも、我が子が「いい子」であることを期待していた。
だから、お母さんを泣かせないよう、頑張ったり誤魔化したりしてきた。
でもね、結局は何回も、いっぱい泣かせてしまった。
誤魔化さなきゃ、泣かせることもなかったのに。
他人に言われるまま、信じていないのに、乗せられてやっていた。
(ΦωΦ)
はっきりものを言う。
思っていることを言う。
自分ができること、できないことを、はっきり伝える。
期待している人を裏切ることや、応えられないことはあるかもしれない。
たとえそうであっても、そのほうが最後は納得できる。
そのとき悲しくても、最後はみんなが理解も納得もしてくれる。
思いを伝えなければ、損にしかならない。
人に乗せられて有頂天になっていることに、よく気づいたな。
笑って誤魔化してきたということを、忘れないことだ。
俺はずっと、お前に「乗せられてるぞ」って言っていた。
その度、お前は気づいていたのに、でも、すぐ忘れる。
「できるべ?」って言われて、いい気になって「うんうん」言うのを、まずやめろ。
乗せられてるんだから。
「自分は自分」と思うこと。
「できる」って言えば信頼を得られると勘違いしている。
できないことを「できない」というのも、信頼なんだよ。
四角の部屋だから信頼を得られるのか。
三角の部屋だって、明るく見えるようにしてちゃんと「こうだ」って伝えたら、ありだろう?
自分の信じた道を行け。
それは、俺が照らしている道だ。
この光を真っ直ぐ見て進めばいい。
ハイアーの姿が見えない。
ずっと声だけが聞こえていた。
姿を見たい。
握手をしたい。
(ΦωΦ)
お前に俺が見えないのは、姿を隠しているわけじゃない。
今はまだ早い。
お前が変わって、「見よう」と思えば見えるようになる。
そうしたら、握手もできる。
俺も、早く握手してぇもん…
じゃあ、またな。
急に手の指がつって、痛みと驚きで目が覚めた。
ハイアーが、ちょっとだけ手を握ってくれたのか。
いつか、握手できる日が来るかもしれないな。