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カトウ

ミコノス島のミコノスさん


※この物語は前世退行を元にしたフィクションです。

昔、1200年台、エーゲ海に浮かぶミコノス島のお話し。

高台にある真っ白い長く続いた塀の上、一人の男が目の前の風景を眺めていた。

目の前は空、下には海。きつい坂に添って真っ白い家々が立ち並ぶ。

今は自由な時間。

なんにも考えていない。なにも考えないのが好きなんだよ。

名前はミコノス。島で何でも屋さんをしている。

家を建てる大工の手伝いもするし、いろんな人を手伝っている。

だから島の住人みんなを知っていたし、顔も広い。

家はほどほどの大きさ、窓からは海が見える。

身内はいないけど、周りの人たちと仲がいいから気にしてない。

ある日、見慣れない船に乗ってヨーロッパ人の金持ちがやってきた。

そしてこう言った。「この島の話が通じるやつはいるか。」

島の住人はミコノスを案内した。

島の住人の中で、誰が偉いということはなかったけれど

みんなを手伝っていたから、ミコノスはみんなに信頼されていた。

金持ちはミコノスを訪ねて家にやってきた。

黒髪の体格のいいオッサンだ。

そしてこう言った。「島をまるごと買い取る。」

ミコノスも、島のみんなもびっくりした。

島の住人は心配して、ミコノスの家の前に集まっていた。

何をバカなことを言っているんだ。

別に島は誰のものでもない。

お金だって足りてるから、いらない。

変なやつ。

何を言っているのかさっぱりわからないけれど

島の住人は「歓迎します。」と、このヨーロッパ人を受け入れた。

拒絶するという考えはまったくなかった。

島には、漆喰と珪藻土で造った真っ白い家がたくさんあった。

島の大工は家を建てるのが好きで、人が住もうが住むまいが、趣味で家を造っていた。

島民の数も関係なく、どんどん造っていった。

だから、島にはたくさんの空き家があった。

金持ちを受け入れたあと、その空き家にヨーロッパ人たちが勝手に住み始めた。

それだけでなく、商売をし始めた。

島でとれる果物、魚、工芸品、ありとあらゆるものを観光客に売る。

島は、ヨーロッパ人の観光地になった。

島の住人は当初は「歓迎する。」と言ったものの戸惑った。

大事にしてきた島なのに、どんどん綺麗じゃなくなっていく。

島の住人は、ヨーロッパ人に軽んじられる、ただの観光資源になってしまった。

たまりかねてミコノスは「こういうのは好きじゃない。」と言ったが

金持ちは「歓迎するって言ったじゃないか。」と聞き流した。

それまで、人の許可なく何かをしに来る人がいる、そういう感覚がなかった。

荒らすだけ荒らし、平気な顔のヨーロッパ人たち。

こういう一方通行な関係は、今まではなかった。理解できない。

島の住人は、困っていれば頼ったし、自分も頼られた。

自然な相互の繋がりの中、人々のバランスが保たれていた。

金持ちは島に巨大な家を建てた。

ヨーロッパから来た大工が島の建築を真似して造った家だ。

ある日、ミコノスは金持ちの家に呼ばれた。

中に入って部屋を見回す。

あったかい島なのに暖炉がある。火もついている。

島の家と同じように、珪藻土と漆喰で壁を造ってはいるけど

床は板張り、ベロアの豪華な椅子、あるものすべてが壁と合っていない。

おまけにムダに広い。

この島の家は、狭くても必要なスペースを考えて造っているのに。

金持ちが話をしてきたけれど、内容がさっぱりわからない。

悪趣味さと、ちぐはぐな造りが気になるうえ、両脇にはガタイのいい用心棒がぴったりついている。

妙に落ち着かなくて、話が頭に入ってこない。

要するに金儲けのために協力してほしいってことなのかな。

金持ちは観光で儲けているから。

中身のない話をしているから帰ろうとしたら、金持ちは

「感謝してるけど、貴重な観光資源だから。」とミコノスに近寄り葉巻を勧めてきた。

イヤミったらしい言い方だ。

「別にいらない。」と断ると、用心棒がひどく殴ってきた。

「自分の話に同意しなかった人は人生でいなかったし、いたら始末してきた。例にもれず。」

「その中でも君は、さらに訳がわからない。」

金持ちの言葉に、ミコノスはこう返した。

「俺もわからないですよ。」

このあと、ミコノスは金持ちに刺された。

高級そうな銀のナイフだった。そしてこの場所で死んだ。

こんないけ好かないところじゃなく、もう少しいいところで死にたかったな。

窓もないんだよ?綺麗な海も見えやしない。

前は楽しかったのにな。

金持ちが来る前は欲しいものが全てあった。それが一番だった。

物とかお金じゃなく全部あって、飽きることもなく満足していた。

でも、知ることが必要だったんだな。

平和しか知らなかったからね。

ああいうワケのわからないやつが来たとき、どうすればいいか知らなかった。

そういう利益優先の生き方があることを知らなかった。

何が起こったかわからないなりに、交渉を持ちかけられた段階でどうにかできたかもな。

島の人たちをあんまり不安にさせたくなかったな。みんなを信頼してたから。

ミコノスさんの魂は、日本で女性として生まれかわり、現在のお仕事は、なんと建築。

身の丈と機能性、美的感覚のバランスの取れた建築を大切にしています。

建築も商売ですから、会議や打ち合わせではもちろん利益優先の話も出ます。

「利益に執着した話になると、この人たち何を言っているんだろう…と思うんです。

そのあと、意識がふ~っと横にそれていって、しまいには全然関係ないことを考えてます。」

ミコノスさんと同じように、営利目的の話は頭に入ってこないそうです。

800年以上経った今でも、続いているんですね。

「それで困ってるかというと、そんな自分はキライじゃない。わけわかんないのはあっちだから。」

                        END

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