top of page

たった一つだけやり残したこと

  • カトウ
  • 2016年5月15日
  • 読了時間: 4分

※この物語は前世退行、胎内退行を元にしたフィクションです。

大昔、何百年も前。

南アジアの小さな町の中、痩せた初老の男が歩いていた。

せっかく久しぶりに町に来たのだから、少し町を巡ってみようかな。

ふらりと散歩でもするような感覚で、町を歩いた。

町の中は賑わって楽しそうだけど、ここは自分には関係ない。

男は修験者。グレーの衣を身にまとい、裸足で歩く。

いつもは、山に籠もって修行をして暮らしている。

通りかかった家から、怒鳴り声が聞こえてきた。

女の人が数人、家のお婆さんに礼儀作法について、ああしろこうしろと、うるさく言われていた。

女の人たちは、黙ってその言葉に耐えている。

「私が耐えたんだから、こうしなさい!」「女なんだから……。」

女の人って、大変だな。

ふと、修行に出る前のことを思い出した。

父が、母に向かってこう言っていた。「二人じゃ足りない。もっと子どもを産め。」

妹にはこう言っていた。「早く結婚しろ。」

女だってだけで、制約がある人生なんだな。

男だったらこんなことはないのに。

女性のことが心配だけど、自分にはどうすることもできない。

自分は裕福な家に生まれた。

家を継ぐ立場だけれど、そんなことは女性の苦労の比ではない。

男だってだけで、自分は黙っていてもいろんなものが手に入る。

でもそれは、何一つとして自分で勝ち得たものじゃない。

楽に手に入るものは、何か違うと思った。

この家には嫌気がさす。家は継ぎたくない。

人から与えられたものではなく、何かを成したい。

歳にして20代半ば、荷物をまとめ家を出た。

そして自分を追い込む道を選んだ。

住まいは木造りの小屋。人一人がやっと寝ることができるくらいのスペースのみ。

持ち物も、手荷物程度のものだけで暮らす。

あらゆる苦行、思いつく限りの修行をした。

体を鍛え、辛いことは一通りやったけど、まだ修行し足りない。

母と妹が大変な思いをしているのに。

修行をし続けたら、何かがわかるんじゃないか。

女性のおかれる境遇は、男の自分には絶対にできない苦行。

様々な苦行を重ねたけれど、これは自分がたった一つだけできなかったことだ。

納得いかないまま歳をとり、おじいさんになった。

自分の道を極めようとしたけれど、極めきっていない。

女の人生は、男である自分には極められない。

最後の修行は即身仏。何も食べずに死ぬことだ。

母と妹に伝えたい。

「あらゆる苦行はやったけれど、あなたたちの苦痛は一生かかってもわからなかった。」

間違った方向に努力したのかな。

苦労しても、それに見合ったものが得られるとは限らない。

家を出ずに、家族の傍にいて共感する、って人生もあったんだ。

大変な思いをしなきゃならないと思って、自分は見当外れな努力をしたかもしれない。

受け継ぐことを嫌って家を出たけど、受け取らない方法でなく、受け取って努力する方法もあったな。

母も妹も、共感してあげればかなり違ったかもしれない。

まもなく命が絶える。

どこからともなく、こんな言葉が聞こえてきた。

「散々、見当外れな努力をしたからそれに気づいた。だから、やったことは無駄にはならない。」

そうか、自分で大変な思いをして掴むことができたものもある。

人から与えられたものに、意味なんてない。

男だから、制約がなくて、やろうと思ったら自分で切り開ける。

これは女性であればできなかったことだ。

ずっと答えを探していたけれど、やっと一つ見えた。

今度は暗いところにいる。

自分は赤ん坊の姿で、今は母親のお腹の中にいる。

父親と母親が話をしている。

「男の子がほしい。男の子だったら、こう育てよう。」

今度は女で生まれてくるのにな。

女の子でごめん。

多分、がっかりされるんだろうな。

親がそう思っているのなら、生まれたら男の子の遊びがしたい。

女の子って、あまりいいものじゃない気がする。

次は、この前どうしてもできなかった修行、女の人生を全うすること。

女、クリアするの大変なんだろうな。

でも、強かった男の記憶を持って行ったらなんとかなるかも。

                          END

bottom of page