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カトウ

許されざる者


※この物語は前世退行を元にしたフィクションです。

体が痛い。ここしばらく、刃物を突き立てたような痛みが続いている。

胃のあたりには、グルグルと渦巻く何かに飲み込まれそうな、おかしな感覚がある。

仕事も何もできたものじゃない。

病院や整体、いろんなところに助けを求めたけど、体に異常は見つからなかった。

寄せては引く波のように、痛みが襲ってくる。

誰か助けて。

朦朧とした意識の中、閉じたまぶたの裏に何かが見える。

立派な身なりをしている母親と男の子の後ろ姿が見える。

手を繋ぎ、楽しそうに話をしながらどこかへ向かっている。

目の前には巨大な船がある。

ここはイギリス。今から新大陸へ向かう。

お父さんは、アメリカに街を作りに行っている。

僕も今から向かうんだ。

大陸に渡って時が経ち、男の子は大人になった。

父親は戦争を指揮する役目、自分はそのもとで戦争に関わった。

イギリス軍はインディアンと組み、別な国の軍隊と戦っていた。

大陸は勝ったほうのものになる。

インディアンは忠誠心に厚く頼もしい存在で、とても仲良くしていた。

お互いに何でも協力しあっていた。

戦いが進み、自分の国の軍隊が勝利した。

そのあと軍からインディアン迫害の命令が出る。「一人残らず始末すること。」

戦争が終わったら、インディアンが邪魔になったんだ。

そして自分も迫害に加わった。

追い詰めたインディアンを次々に殺していった。

そこに感情は一切なく、『やるべきこと』だけに集中した。

インディアンたちは疑いもせず、全力で軍に協力してくれていた。

それなのに自分は裏切った。

一緒に笑いあった人たち。

それを粗末に扱った自分。

怯えた目をした女性、子どもまで、どうして疑問に思うことなく殺してしまったのか。

罪なき人を裏切った自分を許せない。

自分が憎い。

自分を殺してしまいたい。

恨んでも恨みきれないし、償おうにも償いきれない。

どんなに嘆いても、ここから抜け出すことは許されない。

どうして自分を許せようか。

「自分を許して」なんて、そんなことを言われても、自分の許し方がわからない。

後悔と罪悪感だらけの強い自責の念。

「あのぅ、それなら私も一緒に考えるよ。」

痛みをこらえていた日本人女性が、ヨロヨロしながらそこに割って入った。

イギリス人の男は、いぶかしげな顔をした。

「お前は誰だ。」

「私はあなたの生まれかわりで、何百年か先の、あなたの魂だよ。

すべてはもう終わったんだよ。今は戦争のない国で安全に暮らしている。」

「それなら尚更。平和のもとで暮らしているのなら、私の罪を償うことは不可能だ。」

男が言った。

「ここは平和な国だけど、違う意味でのせめぎ合いがある。

ここで私は、裏切られてばかりの人生を送ってきたの。

だから、あなたの背負った借りなら私が代わりに払ったし、多分もう払い終わった。

どうして私はこんな苦しい思いを繰り返すんだろう、って思っていたけど

そうだったんだね、今やっとわかったよ。

裏切られる人間の立場を、しっかり知るためだったんだ。

私は多分、自分で望んでこの人生を選んだ。

人は簡単に背中を向けるよね。

あなたの味方だよ、って顔して近づいてくるけど、そういう人ほど危ない。

味方だって言われたら、私は変に純粋なところがあるから手放しで喜んじゃう。

そして裏切られる、その繰り返しだった。

疑えばいいのに、って思うけど、私はやっぱり人が好きなんだよ。

だから、いっぱい裏切られたし利用された。

でももう、さすがにこれは終わりにしたいよ。ここまで辛すぎた。

もう大丈夫だよ。あなたの代わりに私はたくさん裏切られたから、あなたの業はこれでチャラだよ。

裏切った側は、そんなに深く考えていない。

わりと浅い考えで、さくっとやっちゃってる。悪気はないのよ。

それに、裏切る前と裏切った後の、その人の本質は何も変わってない。

散々裏切られて、そう気づいた。

だから、あなたの本質も変わっていない。

大陸を夢見ていた子どもの頃と、大人になったあなたの本質は同じもの。

そして私は、もう誰にも裏切られない…と思う。自信はないけど、これからは気をつけるよ。」

イギリス人の男は「そうなのか。」と安堵し、硬くこわばった表情が和らいだ。

「ジブン、許せる?」と女性はたずねた。

「わかった、許す。

結局、自分で作った借りは、どこかの時点で自分で返していくようにできているんだな。

同じ魂といえど、別な人生を送っている女性にさせてしまったのは、ちょっと悪かった気もする。

でも、頑張ってくれてありがとう。会えて良かった。」

「じゃあね。お空に帰ってゆっくり休んでね。200年以上も苦しんでいたんだから。」

体の痛みと胃のグルグルした感覚は、ゆっくりと薄れていく。

裏切る者と裏切られる者、どちらに非があるのか。

どちらも被害者であり、加害者なのかな。

どっち、ってことはなさそうだな。

被害者づらして生きてきたんだな、私。

でももう、自分は被害者じゃないってわかった。

苦しかったけど、やっと嘆きから解放された。

プラスマイナスゼロになったような、平らに均されたような、安心感に包まれている。

体がやっと楽になった。なんでかな。それに、とても眠い。

私もお空の世界に行こう。

おやすみなさい。

                    END

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