※この物語は前世退行を元にしたフィクションです。
最近、ちょくちょく過呼吸に苦しんでいる。
原因が何かは、よく知っている。
どうして自分はこんなことを続けるんだろう。
多分それは、できるようになりたいことがあるから。
でも、もう限界。コーチと合わない。
理不尽なパワハラ、もう耐えられない。
次第に頭痛がしてきて、頭蓋が割れてしまいそうな強烈な痛みにのた打ち回る。
痛すぎて、目の前がかすんで見えづらくなってきた。
それなのに、何だろう。目の前に何か見える。
石の四角い台の上に、人が横たわっている。
この人、やけに白い。真っ白な肌。
太っているのか、節々がわからないほど膨れた体。
変わった体型だ。
祭壇に横たわる人。
周りにはたくさんの大ぶりな花が添えられている。
この人、死んでる。
何があったんだろう。
場面が切り替わり、うっそうとした森の中、若い男が笑っている。
大昔の南米。
人々が野性的な暮らしをしていた時代。
男は、顔は笑っているけど、心の中では笑っていない。
それは、父親のことを嫌っていたから。
父親は、村では強大な力を持つ人。
ありとあらゆる厄災が起こったときに活躍するし、あらゆる人の相談役だった。
シャーマンである父親に逆らう人はいない。
皆、困難が起これば父親の意見を求めた。
すべての解決策を知る、村人からすれば神様みたいな存在だった。
でも、俺はそう思ってない。
父親のやっていることの半分は本当だけど、半分はインチキだって知っている。
たたりを恐れる村人たちから、何でもかんでも搾取する。
父親が「神の怒り」という言葉を使えば、どんなものでも手に入る。
森羅万象の人間の力が及ばないことや
意味の分からない、誰も見たことも聞いたことのないこと
それを村人たちは恐れた。
恐れるあまり、村人は家族さえ犠牲にする。
神の怒りの前にひれ伏し、当たり前のように若い家族を生け贄に差し出す。
どうして誰も、シャーマンのやっていることを疑問に思わないのか。
みんな、どうかしてる。
人の弱みにつけこんで私腹を肥やし、命を粗末に扱う父親は大嫌い。
インチキなのに、まかり通っている。
力を付け過ぎた怪物みたいな父親。
そんな父親の言うことは聞きたくない。
だから、いつも反抗していた。
父親は多分、自分に好意的でない息子を苦々しく思っていた。
ある日、父親が村人に向けてこう言った。
「続く日照りは神の怒り。赤毛が日照りを呼ぶ。若い赤毛を差し出せ。」
若い赤毛、俺はその条件に合っていた。
村の男数人に、捕まって縛り上げられた。
石をいくつも体にくくりつけられ、あとは井戸にドボンだ。
そして数日後、浮かんだ遺体は神前に捧げられた。
真っ白く、パンパンに膨れ上がった溺死体。
おかしな体型だと思ったら、そういうわけだったんだ。
このやり方、悪趣味極まりない。
わけがわからない。
赤毛が日照りを呼ぶなんて、あり得ない。
どんだけアホな父親なんだ。
だって俺、息子だよ?
自分が生け贄に選ばれたことに早く勘づいて、逃げればよかった。
そうなるなんて、思いもしなかった。
これは、生け贄というより処刑に近かった。
そんだけ父親は、俺に腹を立てていたんだな。
消されたんだ。
自分にとって都合の悪い人間だから。
赤毛の男は泣いてる。
辛かったろうに。
私も一緒に涙を流した。
この父親…?
コーチだ。同じ目をしてる。
鋭く冷たい目つき。
目的の達成のためならあらゆる手を使い、他人を力でねじ伏せる。
血も涙もない考え方、やり方。
追い求めているのは、自分の勝利と名誉のみ。
精鋭の世界で力を付け過ぎた、誰も逆らうことのできないモンスター。
でも、なんだかんだで誰にも信頼されていないから、可哀想っちゃ可哀想。
信頼できない人についていこうとしていた自分も、どうかしてる。
そうか、もう逃げよう。
ここにいたら私、また消されちゃう。
できるようになりたいと思って必死にやっていたけど、他でやったっていいかもな。
この門から出て、探しに行こう。
新しい自分のフィールドを。
END