※この物語は前世退行、胎内退行を元にしたフィクションです。
昔、ドーバー海峡あたりで起きた出来事。
ドレスの裾を両手で持ち上げ、砂浜をハイヒールで歩く女性がいた。
金色の長い髪をボリュームいっぱいに編み込み、豪華なアクセサリーを身につけている。
イヤだ。
全部取りたい。
全部脱ぎたい。
帰りたい。
馬車を降り、プリプリ怒りながら歩いた。
お付きの人も一緒に数人、歩いている。
海岸沿いの崖の上にはお城がある。
そこに行く途中だったけど、引き返した。
結婚なんか、したくない。
私は、貴族の家に一人娘として生まれた。
歳は10代半ば。
大きな屋敷に住み、お手伝いさんやお給仕さんもいる。
母親に対して、不平不満がたくさんある。
だからいつもイライラして、怒ってばかりいた。
周囲から見たら多分、私は超ワガママお嬢様。
要望があっても聞いてもらえず、いつも私の意見は通らない。
どんなに話しても、親に私の思いは伝わらない。
同じ屋敷に住む親なのに、心の距離を感じていた。
「嫁ぎなさい」と言われた。
親同士で決めた結婚をさせられる。
相手は私の知らない人なのに。
私は、どうしたらいいの?
怒りと悲しみに満ちたこの感情、ぶつけどころがない。
我慢して、嫁ぎ先に向かう馬車に乗った。
でも、崖の上のお城が目に入ったとき、思った。
やっぱりイヤだ。
家に帰る。
だから馬車から降りて、来た道を戻った。
どうしてわかってくれないの?
こんなにイヤなのに。
こんなに耐えているのに。
私には私の意思があるのに。
生活は豊かで地位もあるけれど、やりたいことも発言も、自由に選ぶことを許されない。
そして、自分の部屋のソファの上、自分の胸をナイフで刺した。
これほどまでに私が「イヤだ」と思っていたということを
死をもって、お母さんに伝えたかった。
後から思えば、もっとじゃじゃ馬になって、親を困らせたって良かったのかもしれない。
次は、自力で好きな人を探そう。
思いを伝えられなかった人がいた。
男性の給仕さんのことが気になっていたけれど。
次の人生では、我慢してやれなかったこと、自分の好きなことをしよう。
そして、もっと素直になろう。
景色が変わった。
今度は、別の母親のお腹の中にいる。
ここはピンク色で明るくて、あったかい。
お母さん、検診に来てる。
私が生まれてくるのを楽しみにしているみたい。
今度は、とっても無邪気なお母さんを選んだ。
だって、一緒にお茶を飲んだり、キャッキャしたいもの。
前のお母さんは、そんなふうにできる人じゃなかったし。
お父さんも、あったかくて優しい人だし。
ここまで、いっぱい学んできた。
学んだことを怖れずに実践していけば、きっと抱えてきた問題は全部クリアできる。
これから私は自由を手に入れるんだ。
いろんなこと、したいな。
今度生まれるのは、誰のためでもない、自分のため!
よ~し!! 行くぞ~!!