※この物語は、前世退行、胎内退行を元にしたフィクションです。
古い時代の日本、町の中を歩く女性がいた。
名前は「千代」
大人びた着物、結い上げた髪には赤いだんごのついたかんざしをしている。
このかんざしは、貰ったもの。
とても大事なものだから、いつもは使わない。
時々、鏡の前でかんざしをさして
かんざしをつけた自分を眺める。
その後、かんざしは大事に仕舞っておく。
仕事は、お座敷で三味線を弾いている。
父親は仕事をしていなかった。
母親もいなかった。
食べるものもなく、兄弟も私もあまり食べていない。
家が貧しくて、お座敷に来ることになった。
お座敷で、舞妓さんが踊る。
三味線を弾くのは楽しいけど、私も綺麗な着物を着て踊りたい。
黒っぽい着物しか着せてもらえない。
黒いのはつまらないな。
でも、踊るには綺麗な顔が必要なんだって。
私はダメみたい。
そんなだったけど、好きな人がいた。
その人は、時々お店に来るお侍さん。
私に、かんざしをくれた人。
私のこと、「好きだ」って言ってくれた人。
好きだったけど、奪われた。
他の女の人に取られた。
男性の家は裕福な家。
親の決めた別な人と結婚させられた。
私がこういう仕事をしているから、結婚相手にはダメだ、って。
私のお家が裕福だったら一緒になれたのに、って
悲しくて、辛くて。
ある日、町で大きないさかいが起こった。
鉄砲を持った大勢の人たちが争いを起こした。
やがてそれは、店のすぐ外まで迫って来た。
もう逃げられない。
そして私は、流れ弾が頭に当たり、その場に倒れた。
孤独な人生だった。
こんな悲しいのはイヤだな。
やり残したこと、いっぱいある。
当たり前の幸せ。
お嫁さんになって綺麗な着物を着たり
家族を作ったり、好きな人の子どもを産んだり。
幸せに笑って生きたかったな。
決まりきった人生はつまらない。
外にも出たかったし。
弟、ちゃんと生きていてくれればいい。
家には食べるものがなかったから。
それと、美人は得だな…
もし生まれ変わるなら
次は好きな人と結婚して、ちゃんと子どもを育てて
そして、もっと自由に、好きなように生きたい。
100年ほどの時が過ぎ去り
長い間待った。
やっと生まれ変わることができる。
ここは、お母さんのお腹の中。
もうすぐ生まれるところ。
今回私が選んだお母さんは、とっても美人。
今度は美人に生まれるんだ。
生まれたら、楽しいことしたい。
自分の好きな人に、愛されたい。
楽しく生きること以外、あんまり考えていなくて
「生きるって楽しいものだ」って思ってる。
イヤなことも受け止めて、楽しく笑って生きる。
そう決めてる。
え、その後の結婚相手にうんざり?
見てるだけじゃダメなの。
これからどうなるかは、お互いの心次第。
お互いの幸せを思って、もう離れないで。
もしかして相手は
あなたが歩み寄って来るのを待ってるかもよ?
今の旦那さん、かんざしをくれた人。
今の息子は、そのときの弟。
捨てるのは簡単。
ただ、せっかく繋がったご縁だから
もう少し投げ出さずにいてほしい。
そうなんなかったら、なんなかったでいいじゃない。
起こったことは想定外だったけど
せいぜい、有意義に生きてほしい。
一緒にいる幸せ、一緒になれた幸せを、ちゃんと感じてね。
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せいぜい(精々)という言葉について
今の時代は『いやみ』『皮肉』の意味を込めて使うことが多くなりましたが
元々は『力の限り』『一生懸命』という意味で使われていたそうです。
古くは、他人や自分を励ますポジティブな言葉。
どうかせいぜい、自由に、あなただけの幸せを…
(*˘︶˘*).。.:*♡