※この物語は前世退行とサブパーソナリティセッションを元にしたフィクションです。
夫と別れ、その後はずっと一人でやってきた。
それが当たり前みたいに、がむしゃら生きてきた。
でも、初めて思った。
「一人になるってこういうことなんだ」って。
大きな病気を患い、入院、手術。
その間、子どものこと、家のこと、気になることがたくさんありすぎた。
「一人で怖い」
「助けて」
今まで、こんなふうに思ったことがなかった。
ウトウトする中、観音様が現れた。
観音様は神々しい光を放ち、こう言った。
「もう、いいんじゃないの。めんどくさい。」
戦後の日本。
場末の酒場で、はすっぱな感じの女が歌っている。
品のない、人を馬鹿にしたような仕草。
真っ赤な口紅、ノースリーブのロングドレスに毛皮をまとい、キセルを吸う。
名は香蘭(コーラン)
酒場の歌手。
歌は好きだけど、仕事にするのはめんどくさい。
ダルい。
もう、呑み疲れた。
でも、母親を養わなきゃ。
体が弱くて、勤めに出ることができないお母さんを。
死なれてもイヤだし、お母さんをキライじゃないけど、めんどくさい。
客の男2人が口論を始めて、路地裏に出た。
金のことなのか何なのか、訳わかんないことで勝手に喧嘩してる。
人ごとみたいに、それを眺めた。
ばっかじゃない。
死ねばいい。
勝手にやれば。
私には関係ない。
ざまぁみろ。
私は、誰からも優しくされていないんだよ。
人なんかキライ。
仕事が終わった帰り道、路地裏を歩いていると、建物の陰から男が出てきた。
そして、男に刃物で刺された。
男は叫んでいる。
「お前のせいで」「お前が悪い」「死ね」って。
男が何で怒っているのか、恨まれているのか、それともヤキモチなのか。
刺されて痛い。
だけど、やっと楽になれるな、って。
もう、めんどくさい思いして生きることないな。
もう、疲れた。
だから男に、笑いながら、こう言ってやった。
「ざまぁみろ!」
罰を受けるために、この世に生まれてきた。
ずっと昔から、何度も、何度もそうしてきた。
今度も、やっと死ねる。
でも仕事しなきゃ。歌うの。
天国に行っちゃいけない。
罰なんてないのに。
でもどうしても、そうしてしまう自分がいた。
観音様の声が聞こえた。
「もう終わった。もう歌わなくていい。」
あぁ、やっと天国に行けるんだ。
行っていいんだ。
雲の上から外界を見下ろすと、人生の全てが見えた。
呆れた。
思わず苦笑いした。
ばかだねぇ。
何やってんの、私。
こんなに、めんどくさい生き方しなくたって
もっと楽に、普通の主婦だとか、平和に暮らせる人生だってあったのに。
でも、そういうふうに生きなくちゃいけなかった。
めんどくさいこと、いっぱい考えてたな。
でも、私が悪いんじゃないね。
そして香蘭は、私に向かってこう言った。
ねぇあんた、何ハードなことしてんの?
相変わらず、めんどくさいんだね。
ばっかじゃない。
やめれば?
子どもがめんどくさいのは、あんたのせいじゃない。
放っとけばいいじゃん。
あとは勝手に生きていくから。
本当は、あんただって知ってんでしょ?
一人で生きていかなくったって、周りの誰かが手伝ってくれるって。
めんどくさいもの、何握りしめてんの?
いらないいらない!
病気になったのも、あんたのせいじゃない。
考えすぎを減らして、淡々と生きていけばいい。
苦しくなると、また自分を罰する方向にもっていくような生き方しちゃうから。
いつの間にか、香蘭は観音様に変わっていた。
でも、この観音様、香蘭かな。
私に向かって、「ばーか」って顔してる。
香蘭の顔と、観音様の顔が重なっている。
私に辛いことが起こるのは仕方のないこと、って、ずっとそう思っていた。
でもそれって、根拠はないな。
これからは、考えすぎることを手放して、軽く生きていけたらいい。
うすうす思ってはいたけど、やっぱ、めんどくさかったね、いろいろと。
END