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カトウ

【傷の誇り・その2】傷だらけの僕


※この物語は、サブパーソナリティ、前世退行複合セッションを元にしたフィクションです。

【傷の誇り・その1】からの続き

傷だらけの女性の姿が見えなくなり、別の風景が見えてきた。

中世のヨーロッパ、結婚式の行列。

たくさんの民衆が新郎新婦を取り囲んでいる。

自分は民衆の中の一人。

名前は「ダン」

貧しい絵描き。

花嫁は、僕の幼なじみ。

彼女は、土地の金持ちと結婚した。

彼女とはずっと両思いで、お互い「結婚しよう」と言っていた。

だから、彼女は僕と結婚すると思っていた。

それなのに、どうして。

ただ呆然と、結婚式の行列を眺めている。

彼女が他の男と結婚することを知らなかったのは自分だけ。

みんな僕に同情して、何も言えないでいる。

「あの娘と結婚するんだ」って、お母さんにもずっと言ってきた。

お母さんに申し訳ないし、恥ずかしい気持ちでいっぱい。

お母さんは何も言わないけど、残念がっているのはわかる。

家はお母さんと二人暮らし。

ニワトリを飼い、卵を売る仕事をしている。

描いた絵を売ってお金にするのは、なかなかに難しい。

貧しい暮らしで幸せとは言えないけれど

お嫁さんが来てくれたらきっと、家の中も明るくなる。

そうしたらお母さんもきっと喜んでくれる、そう思っていた。

その後は、家の外に出たくても出られなくなった。

町中の人たちに「あの娘と結婚する」と言っていた。

結婚できなかったことを、笑いものにされるんじゃないか。

どうして彼女はずっと僕を騙していたのか。

どうして結婚する気もないのに「愛してる」と僕に言っていたのか。

結局は金持ちと結婚した。

そんな女の言うことを信じていた僕が馬鹿だった。

結婚式のときの彼女の笑顔が憎い。

女は汚らわしい生きもの。

女の言うことはもう信じない。

女性に対する恨みから、僕は女性不信になった。

恨みを捨てきれず、町の娼婦を買ってボコボコにした。

娼婦は、金さえ払えばそれで終わり。

娼婦を買っては殴る、そんなことを繰り返した。

でも、そうしているうちに罪の意識に苛まれた。

恨みを持ち続け、一生辛い思いをするのは嫌だ。

教会に行き、神父さまに懺悔した。

すると神父さまはこう言った。

「あなたは女性に生まれ変わったら、今していることと同じことをされるだろう」

それを聞いて驚いた。

女に生まれ変わりたくない。

そこから先は、娼婦を殴ることはやめた。

数年後、僕はお母さんよりも早く死ぬことになる。

娼婦から病気をうつされ、顔も体もドロドロになってしまった。

女の人に苦しめられ、女の人の苦しみによって死んでいく。

お母さんは、ずっと僕の傍にいてくれた。

お母さんみたいな優しい女性もいる。

それなのに僕はどうして、そういうところを大事にしてこなかったんだろう。

それに、最終的に裏切られたけど、彼女と二人で過ごした時間は幸せだったじゃないか。

恨みも、憎しみも、もう手放す。

「女に騙された」と、諦めて引きこもったり

女の人を殴る方向に行っちゃって、人生もったいなかった。

何故ならその後に、もっと良い人との出会いが待っていた。

恋愛で失敗しても、引きずらないで。

昔の人なんて、忘れたほうがいい。

外に行って交流し続けていれば、必ず自分のことをわかってくれる人がいるから。

恋愛に失敗しても、もう夜の世界には踏み入らないこと。

次に良い人がいても、出会えなくなっちゃうから。

男女関係は、上手くいかなかったときのダメージが大きい。

傷つくけれど、苦しんだぶん、いいこともある。

傷ついた自分を、もっと誇りに思って。

焦って自暴自棄になることのないように。

悠々と待っていれば、少し先に良い人が現れるよ。

ダンさんは、穏やかな顔で励ましてくれた。

風景が変わって、傷だらけの女の子のところに戻った。

もう、手足は鎖で縛り付けられてはいなかった。

落ち着かない様子で座っている。

鎖で縛られているのが当たり前だと思っていたけれど

鎖が外れたら意外と自由、これもいいな。

本当は、あなたが男の人と関係持ったりしたくなかったのも知ってた。

やりたくないことをやってきて、だいぶ傷ついてきたと思う。

今まで、私のワガママに付き合わせちゃって、ごめんなさい。

自分の女性性について考えるのは

自分にとってはしんどい問題だった。

怖かったけど、勇気を出して向き合ったら一つ見えた。

明るい時間帯の外、少し目を向けてみよう。

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