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カトウ

大人ぶってる人、キライ


※この物語は前世退行・年齢退行を元にしたフィクションです。

最近、思ったことがそのまま直ぐに口に出てしまう。

ケンカを売りたいわけじゃない。

でも結果的に相手を不快な気持ちにしてしまう。

大人げない発言をしては自己嫌悪に陥る。

出てくる言葉は、確かに本音。

でも、何でもかんでも言えばいいってもんじゃない。

この件での一番の被害者は夫。

どうして自分を抑えられないのか。

打ちっぱなしのコンクリート製のトンネルを歩いていると

間もなく、自分の前を誰かが歩いているのが見えてきた。

トンネルを出ると柔らかい光の中にいた。

ここはどこかの町外れ、林のそば。

林の入り口に西洋の小さな子どもが二人、楽しそうにお喋りしている。

10歳くらいの女の子と、年下の男の子。

女の子は飄々とした顔つきで利発そう。

男の子は痩せっぽちで小さく、屈託のない笑顔。

この男の子、どこかで見たことがあるような。

この笑顔、もしかしたら旦那?

女の子は、自分かもしれない。

急に場面が変わった。

実家の居間で、20歳前の自分がテレビを観て笑っている。

バラエティ番組かな、面白くて、ゲラゲラ笑って

そして、後ろにいる弟に「みた?!今の~!!」と話しかけた。

でも、振り向いたら弟はそこにいなかった。

弟は学校以外は外出せずにいつも家のどこかにいて

いつでも静かに黙々と自分に集中しているタイプだった。

そのときも、音もなく弟がそこにいるものだと思い込んでいた。

振り向いて、空を切った私の言葉。

「あぁ…弟、今日はいなかったんだっけ」

軽いやっちまった感、ちょっと恥ずかしいけれど、体勢を戻し、また番組の続きを観る。

また場面が変わった。

小学生の頃、従兄弟たちとボードゲームをしている。

人生ゲーム、みんな楽しんでいるけど

負けた弟はキレて、むくれたまま場を去って行った。

「どんな手を使っても勝ちたいんだよ!!」って。

弟、結構短気。

でも、いつでも正直。

年子だったから、姉弟ゲンカはしょっちゅうで

髪を引っ張ったり馬乗りになったり、かなり壮絶。

私は女だけど年上だから、力では負けない。

ケンカで負けても、弟はぶんむくれる。

でも時間が経つと、何ごともなかったかのようにまた遊んだ。

また場面が変わった。

私には弟が二人いるのだけれど、今度は下の弟。

家の外から下の弟の泣き声が聞こえてきた。

慌てて外に出る。

その時私は高校生、弟は小学校低学年。

弟、頭から血を流して顔中真っ赤、ギャン泣きしてる。

弟の友だちが急にキレて、大きな石を投げつけてきたらしい。

それが弟の頭頂にヒット、そしてプロレスで見るような流血。

私、びっくりして、でも親は共稼ぎでいない。

で、近所のオバチャンに助けを求めた。

弟ね、いっつも怪我して泣いてたの。

家の中でも転んで流血するのはしょっちゅうだったし

自転車で転んで骨を折って帰ってきたこともある。

高校から帰ってきたら、嘔吐して泣いてたこともあった。

弟二人、めっちゃ可愛い。

この二人ね、今だに忘れた頃に私のところにやって来る。

もう40オヤジなのに「お姉ちゃん」って言ってさ。

そこがキモ可愛い。

距離感も丁度よくて、お互い干渉することもなく、他愛のない話するだけ。

怖ろしく理想的な、自然な関係。

三人姉弟、力を合わせて大きくなった。

お互いを認め合い、自分のことも認めていて

会わなくたって、話さなくたって、ケンカしたって

相手が自分のことを嫌いになったなんて、微塵も思わない。

ああ、さっき見えた前世?の女の子と男の子は

多分私と旦那で、そして多分近所の仲良し同士。

今の私と弟みたいな、自然な間柄だったんだ。

それなのに、夫婦になったらその自然さがなくなった。

お互いに言いたいことをストレートにぶつけたり

お互い自然にそこにいたり、ってことが難しくなっちゃった。

今は私が暴言ぶつけて、旦那は「お前に嫌われた」ってしょぼくれてる。

私はただ、姉弟ゲンカみたいなことをしてみたかっただけなのかも。

相手に対する信頼感や個を認める気持ち

自分の存在が確かなものだっていう感覚を持って

旦那とそういうふうな自然な関係でいたかったのかな。

どうしたら、旦那と自然な関係でいられるかな。

そう言ったら、前世の女の子がこう言った。

「大人ぶってる人、キライ」

「ちっちゃい頃に好きだった遊び」

小さい頃、秘密基地作って遊ぶの、好きだったな。

「旦那さんにもそれ、聞いてみて!」

そう言って、前世の小さな二人は手を振って

「バーイバーイ!!」って、去って行った。

夕ご飯を食べながら

「ねえ、小さい頃、姉弟でどんな遊びをした?」

そう聞いたら、旦那は「覚えてねぇよ」と仏頂ヅラで答えた。

いつもなら私が、ムッとして間髪入れずに何か言うところ。

でも、お互い何も言わず沈黙が続く。

しばらくすると、旦那はハッとしたような顔をした。

そして、幼い頃遊んだ話をし始めて、止まらなくなった。

表情がイキイキしていて、さっきまでの旦那とはまるで別人。

なにこれ、この旦那、可愛い。

50オヤジなのに、キモ可愛い。

もう、暴言を吐く気にもなれない。

これから先、仏頂ヅラで大人ぶった旦那を見かけたら

「大人ぶってんじゃねーよ!」

って、子どもみたいに笑って言ってやろう。

首絞めてからハグしちゃう、そんなやり方が私たちには合っている気がする。

ちょっと乱暴だけど、そういう子どもみたいな遊び方。

大人は、遊びとか笑いとか、すぐ忘れるからね。

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